- 転んだ、尻もちついた、高い所から落ちた
- いつのまにか骨折
腰が痛い
腰痛腰痛は誰でも一生のうち少なくとも一度は罹患する。性別、年齢、職業を問わず発生している。しかも、急激に発症する腰痛捻挫(急性腰痛症、ぎっくり腰、Hexenschuss魔女の一撃)から、慢性に経過する腰痛。腰痛のみならず、下肢放散痛、排尿障害をともなうもの、手術を要する腰痛まで症状は多彩に富んでいる。
厚労省の国民生活基礎調査によれば、病気やケガ等で自覚症状のある「有訴者」の統計では、男性では「腰痛」「肩こり」「鼻がつまる」、女性では「肩こり」「腰痛」「手足の関節が痛む」の順となっており、腰痛は人類のもっとも多い訴えとなっている。

※参考:厚生労働省 2019年国民生活基礎調査
症状
痛み
- 突き刺すような痛み
- 安静に(寝ていても)していても痛い
- 立てば痛い
- 動けば痛い
- 体を曲げたり、ねじったりしたら痛い
- 朝起きる時に痛い
- 歩けば痛い
- 台所で痛い
- 仕事で痛い
- 物を持つと痛い
- 大腿(もも)から膝、足まで痛い(痛みが走る)
- 腹圧をかける(咳、排便時)と痛む
ケガ
しびれ
- 足全体がしびれる
- 咳、くしゃみで足に痛みが走る
- 足(下腿、足部、趾)がしびれる、感覚が鈍い
体を動かす
- 体が自由に動かせれない
- 体を動かす(ねじる)と痛みがひどくなる
- 腰をそらすと、お尻(臀部)や大腿後面に痛み、しびれる
- おじぎ(前かがみ)がしにくい
排尿
- 排尿がチビリ、チビリ
- 尿が出にくい
主な疾患
1.いわゆる腰痛症
<診断のポイント>
一般的な諸検査では、原因が明確でない腰痛。慢性の筋疲労、姿勢性の原因が考えられるもの、腰椎の椎間関節の捻挫とも考えられるものなど。
2.腰椎椎間板ヘルニア
<診断のポイント>
最初は、腰痛、間もなく片側性の下肢しびれ、下肢放散痛を来す。姿勢が傾く、歩行困難。下肢から足部にかけての知覚異常、足部の筋力低下。稀に排尿障害。MRIが有用。
3.変形性脊椎症
<診断のポイント>
脊椎の加齢変化。レントゲン上、椎間板や椎間関節の狭小化、骨棘形成。腰痛の原因としては意義が少ない。
4.腰部脊柱管狭窄症
<診断のポイント>
高齢者の腰痛、下肢痛、しびれ感(坐骨神経痛)、立位を維持したり、歩行すると下肢のしびれ。椅子に座ったり、前かがみになると症状軽減する。排尿障害をともなうこともある。
5.腰椎分離症・腰椎分離すべり症
<診断のポイント>
分離症は、生まれつきのこともあるが、青少年の激しいスポーツ活動によって腰椎椎弓の疲労骨折によることが多い。分離症に引き続いて、すべり症が発生することがある。
6.変性脊椎すべり症
<診断のポイント>
中高年以後で分離症なしに発症し、腰部脊椎管狭窄症の一原因ともなり、手術を要することもあり、椎体の不安定性がある場合には手術を要する。
7.化膿性脊椎炎・腸腰筋膿瘍
<診断のポイント>
全身倦怠感をともない、体動が困難(脊柱不橈性高度)で発熱、白血球数増多、CRP高値の場合は、この疾患を疑って検査する。安静(コルセットも有用)と抗生物質の投与。
8.脊髄腫瘍
<診断のポイント>
腰痛ともに多くの症例で、下肢症状(しびれ感、麻痺、知覚麻痺、筋力低下)をともなう。レントゲン、MRIで診断できる。
9.転移性腫瘍
<診断のポイント>
腰痛、とくに安静にしていても持続性の腰痛。他部位の悪性腫瘍(ガン)の確認。
10.脊椎圧迫骨折
<診断のポイント>
転倒、尻もちをついたときなどに脊椎(椎体)に骨折が発生する。中高年、骨粗しょう症を有する女性に多い。
診断
脊椎の症状
背骨(脊柱)の変形、動きなどの観察
下肢の症状
坐骨神経の伸展テスト(下肢挙上テスト)、下肢腱射(含 病的反射)、筋力、知覚(痛覚、触覚など)
※この診察によって、単なる腰痛なのか、神経症状をともなった腰痛なのかを診断し、次の段階に移る。
レントゲン
骨の形状、椎骨のアライメント骨と骨との関係(隙間)、椎間板の痛み具合がある程度わかる骨の質、骨折、骨の腫瘍などの診断。
CT
X線撮影とほぼ同様だが、骨の形、骨の内部が詳しくわかる。
MRI
軟骨と神経との関係などがよくわかる。
治療
保存的治療
- 薬物療法(含 注射)
- 鎮痛剤(痛み止め)
- 筋弛緩剤(筋肉を柔らかくする)
- 精神安定剤(痛みを落ちつかせる)
- リハビリ
- 温熱治療
- 電気治療
- 体操療法
- 日常生活訓練
- 機能訓練(運動器の体操療法)
- ロコモ体操
- ブロック療法(神経を一時的に麻痺させる注射)
- 圧痛点注射(トリガーポイント注)
※当院では上記の保存的療法を種々組合せ患者に合わせた治療を行っています。
手術療法
当院では以下の手術を行っています。

腰椎椎間板ヘルニア
腰椎(椎=骨)と腰椎との間にあって、いわばクッションの役目をしている椎間板(軟骨)が何かの拍子に傷んで、飛び出し、そこにある神経(神経根という)に当たり、腰痛と下肢(あし)の痛み(放散痛、走る痛み)としびれ感が生ずる疾患。
好発年齢
20歳代、30~40歳代など活動性の高い年齢層にみられることが多いが、最近では10歳代でもみられることも多く、50~60歳代にも発症する。
好発部位
腰椎は5枚あり、1番よく動く第4、第5腰椎間(L4/L5間と略す)、次いで第5腰椎、仙椎間(L5/S1と略す)が多いとされている。
症状
- 腰痛と片方の下肢(あし)の痛み(痛みが走る、放散痛)及び、しびれ感がある。
- 体を動かしたり、労働、スポーツで痛みが増悪する。
- 安静で痛みが軽くなることが多い。
- 急性に発症すると身動きに困り、2~3日すると腰痛は少し軽くなるが、下肢症状(放散痛、しびれ感)が鮮明になることが多い。
- 下肢痛は、咳やくしゃみ、また排便時の“きばり(いきむ・いきみ)”で増悪する。
- 下肢のしびれがひどくなり、足の筋力が低下すると、歩行時スリッパが脱げやすくなったり、足首が上に持ち上げれなくなる(下垂足)こともある。
- 腰椎椎間板ヘルニアが巨大で椎間板のある部位の真ん中に出ると、両下肢にしれびと筋力低下、排尿障害(時に尿閉→この場合には、緊急手術が必要)をともなうこともある。
- 慢性期になると腰痛、下肢放散痛は軽減するが、体を一定の位置(例えば腰をそらすなど)にすれば痛みが下肢に放散し、下腿、足部の触った感じ(知覚障害)が出現する。スリッパがいつのまにか脱げていることもある。
問診
臨床所見(他覚所見)
- 疼痛性跛行
急性期には、腰をかばうような肢位、腰に手をあてて一見支えるような姿勢、腰を伸ばすと痛いので、前かがみになったり、体をゆがめて歩く。 - 姿勢(脊柱所見)
痛みのため少しでも痛みの楽な方向に体を曲げている(疼痛性側彎)。
体を真直ぐにしようとすると下肢に放散痛がきたり、腰を伸ばす方向に動かすことが困難で、伸びても臀部や大腿(もも)後面、下腿に痛みが走る。当然、腰の動きは低下する(脊柱不橈性)。 - 神経根緊張徴候(下肢伸展挙上テスト、SLRテスト、またはラセーグ徴候)。
腰椎椎間板ヘルニアの最も重要な疼痛誘発テストである。 - 神経脱落所見
腱反射の低下、消失
知覚障害(痛覚(ハリ刺激)、触覚の低下、消失、過敏)
足部の筋力低下(足首の背屈、足趾の背屈、屈曲)
画像診断

レントゲン
急性期単純X線像だけで腰椎椎間板の診断はできない。この疾患以外に、変形性脊椎症、腰椎圧迫骨折、腰部脊柱管狭窄症の示唆、悪性腫瘍の腰椎転移など鑑別の一助となりうる。慢性期になると、腰椎側画像で椎間板腔が狭小化している部位があれば、腰椎椎間板ヘルニア(L4/L5、あるいはL5/S1が多い)も疑われるが確定診断にはなりえない。
MRI
腰椎椎間板ヘルニアの診断にもっとも役立つ検査法である。
治療
保存的治療
腰椎椎間板ヘルニアの多くは手術をしなくても症状が軽快することが多い。 かといって、長期間寝ていると、体幹あるいは全身の筋力が衰え結果はよくないことが多い。安静と運動を組み合わせた保存的治療が原則となる。
- 患者への指導、日常生活の指導
腰椎椎間板ヘルニアは手術を要することはそんなに多くはなく、大部分は保存的治療(手術をしない治療)で軽快すること。 日常生活での姿勢、動作などが必要なことを理解していただく。 また、疼痛の程度に応じて、日常生活動作を加減し、安静は必ずしもよい方法ではないことをよく理解してもらう。 - 薬物療法
消炎鎮痛剤(アスピリン、NSAIDsなど)
薬剤の副作用に注意を要する。 - ブロック療法
硬膜外あるいは神経根ブロックも効果がある。 - 理学療法(物理療法)
温熱療法、電気治療など。 - コルセット
腰部の軽度の安静と安定性を補強して、腰部の負担を軽減する。 - 運動器リハビリテーション(体操療法)
腰背筋や腹筋を強化して、腰部の支持性の強化を目指す。継続的に行うことが重要。
手術的治療
腰椎椎間板ヘニルアでは必ずしも手術は必要ではない。
手術の必要性を考える場合としては、
- しっかりとした保存的治療を長期間(およそ1~3ヵ月間)行っても症状の改善がみられない。
- 片方の下肢(あし)に力が入りにくい、足首が十分に自分の力で上に向きにくい(下垂足)、しびれが続いている。
- 排尿障害がみられる。
- 腰痛と下肢痛(坐骨神経痛)が激烈なとき。
- 日常生活が困難。
などである。
手術には、腰の後側を切開して(後方アプローチ)ヘルニアを摘出する方法と、腹部を切って腰椎の前方からアプローチする方法があるが、現在多くは後方アプローチの手術である。
椎弓切除術によるもの
腰の後側の真ん中を切開して、椎弓という部分に達し、その椎弓の一部を削り(開窓)、
神経根を寄せて(避けて)ヘルニアを摘出する方法。
Love法
肉眼的に病巣部の上下の椎弓の一部を削り、神経根を避けてヘルニアを摘出する。
過去の腰椎椎間板ヘルニアの手術では、ルーチンの方法であった。
顕微鏡下ヘルニア摘出手術(Casper法)
腰部に小切開を加え、術野を顕微鏡(4倍程度)で拡大して、椎弓の一部を削り、ヘルニアを摘出する。
肉眼的に確実にヘルニアを摘出でき、切開も小さくて済む方法。
鏡視下ヘルニア摘出術
内視鏡による手術で、切開創は小さく、ヘルニアを摘出できるが、手術時間は術者の手技に依る。
前方法
腹部から腰椎に到達する方法。
椎間板摘出と同時に腰椎前方固定術(腰椎と腰椎を癒合させる手術法)を行うこともできる。現在は行われることは稀である。
手術後のケア
どのような手術法によっても、腰椎に手術というストレス(キズ)を負っている訳なので、当分の間(2~3週間程度)は過激な動作は控え目にする。術後の日常生活での姿勢、体動も腰に負担がかからぬように注意する。多くの病院では、短期間でも腰椎コルセットの装着の必要性を認めている。手術後は再発防止のため、腰痛体操が必要。
手術後の経過
手術方法によっては、術直後(1日目)から起立歩行できるものから、数日間安静を要することがある。短期間の腰椎コルセットが必要なこともある。下肢の痛みは、術直後にとれ、足の動き(筋力)は早急に回復するが、足部のしびれ感(知覚鈍麻)は術後かなり遅れる。
腰部脊柱管狭窄症
腰部脊柱管狭窄症とは、背骨の連なっている脊柱の脊柱管内に脳から起こっている脊髄神経が脊柱管内の骨あるいは周囲軟部組織によって押さえつけられて、神経症状が出てくる病気である。
好発年齢・好発部位
高齢者、男性の変形性脊椎症にみられることが多い。変性すべり症による腰部脊柱管狭窄症は女性に多い。L4/L5に多い。
症状
神経性間欠跛行
腰部脊柱管狭窄症に特徴的な症状。
- 腰痛、両下肢痛、しびれ感、灼熱感、ほてりなど、臀部、会陰部の異常感覚があり、残尿感や尿意逼迫感もある。
- これらの痛み、しびれ感は、真直ぐに立って歩くと出現し、しゃがみ込んだり、椅子に座ると楽になり、連続歩行距離が50m~100m程度で休みたくなる。
- 間欠性跛行は、下肢動脈の閉塞性動脈硬化症との鑑別が必要である(足背あるいは後頸骨動脈、膝後の膝窩動脈の拍動が欠如している)
画像診断

レントゲン
確定診断は出来ないが、脊柱管のおおよその大きさを知ることが可能で、変形性脊椎症、脊椎分離症、脊椎分離すべり症、脊椎変形性すべり症の所見を把握することは必要である。
MRI
脊柱管内での脊髄と骨、椎間板、黄色靭帯馬尾神経、神経根などとの関係がよくわかり、診断のみならず、治療方針の大いなる参考となる非常に有用な検査。
CT
脊柱管の形状、特に脊柱管を骨性突起物で狭窄している状況を知るのに有用。
治療
腰痛よりも、下肢のしびれ感、脱力感が主体で、長時間の立位や歩行、腰椎の後屈により、異常感覚が生ずる「馬尾神経型」は保存的治療は困難である。
保存的治療
疼痛の薬物療法(消炎鎮痛剤、筋弛緩剤、プレガバリン)以外に末梢血管拡張作用のあるPGE(プロスタグランジン)などを用いる。
神経ブロック
硬膜外ブロック、神経根ブロック、などが有効なことがある。
装具療法
腰部脊柱管狭窄症用の腰椎コルセットもかなり有用である。
運動器リハビリテーション
温熱療法、電気治療とともに腰痛体操が効果的なことがある。
手術療法
馬尾症状のある患者は、保存的治療には反応しがたい。手術療法を要することが多い。脊髄を圧迫している骨性障害物あるいは軟部組織を除去する。そのためには、椎弓切除術を行って、これらを取り除く、除圧が主体となる。しかし、腰椎すべり症を合併したり、腰椎の不安定性がある場合には、脊椎固定術も必要である。
脊椎圧迫骨折
中高年の脊椎に屈曲圧迫力が働くことにより(転倒、尻もちをつく)、脊椎(椎体)に骨折が発生する。多くは骨粗鬆症が基盤にある。高齢社会を迎えて、骨粗鬆症患者に明らかな転倒などの外傷がみられないのに、脊椎圧迫骨折が発生し、「いつのまにか骨折」と巷間で言われている。
好発年代
中高年、骨粗鬆症を有する女性に多い。ただし、青壮年の男性では高所からの落下によるものが多い。
好発部位
胸郭で可動性の少ない胸椎と比較的可動性のよい腰椎との境界部(胸腰椎移行部)、すなわち、第11、12胸椎、および第1、2腰椎に多い。
症状
腰背部痛、とくに体動により増悪する。
「いつのまにか骨折」の場合には、体動とくにお辞儀によって病院を受診することがある。
ひどい外傷の場合には、脊椎の脱臼骨折となり、脊髄損傷(対麻痺、パラプレンジア)を生ずることもある。そのため脊椎骨折が疑われる患者さんでは下肢の神経症状の有無の確認、万一、脊髄損傷を合併しているときは排尿、排便(膀胱直腸障害)を来す。脊椎の激痛をともなう可動性の低下、胸腰椎移行部の叩打痛。
画像診断

レントゲン
脊椎椎体の楔状変形の有無を確認する。
MRI
診断するうえで最も確実な検査である。
治療
椎体の脱臼が無い場合
- 自分で動ける範囲での生活
- コルセットを装着しての生活
- 運動器リハビリテーション、体操療法
椎体の破裂骨折
椎体の前方、真ん中あたりの圧迫骨折により、椎体の後方(後壁)が脊柱管内に突出し、脊髄神経への圧迫が起こる危険性がある。この場合は、骨片の整復が必要であり、椎体形成術が必要である。
椎体形成術
脊椎圧迫骨折で、椎体の後壁の破壊によって骨片が脊椎管内に突出する場合に行う。X線透視下に針を後方から刺して、椎体内にハイドロキシアパタイトあるいは骨セメントを注入して固定する方法。全身的な侵襲が少ない。